春燈賞(抄)25句 自選
嫁ぐ子へいつもの朝餉桃の花
囀に少しおくれて鳩時計
亀鳴くと言張る祖母に与したり
片ひざの車夫の肩借る春の夕
花時をふらりといなくなる漢
静かさや犬の耳立つ朧の夜
幼子のおとがひ並ぶ金魚玉
白シャツの風にふくらむ一輪車
教会を出て立ち話青葉風
紅さして少女駆けゆく祭笠
野立傘末席にゐる涼しさよ
丁寧にもの言ふ少女眉涼し
黙祷に秋の日傘をたたみけり
兄嫁に母の面影盆用意
白桃の種のこつんと自己主張
月光を挟みて母の手紙閉づ
月夜茸食べてしまへり夢の中
色鳥や童話館よりおばあさま
人待てば隣に僧や秋時雨
たちまちに「面」の一撃冬来る
電車よりおかめ降り来る一の酉
熱燗や大事な話あつた筈
三越前学僧ひとり悴める
担がれて信号を待つ聖樹かな
待春やふうらり入る帽子店